型にハマらない農業生産法人、Wakka Agriは次のステージへ
株式会社 Wakka Agri
伊那市街地から離れた、南アルプス山麓の農村地帯。Wakka Agriがコメ作りの場として選んだのは、長谷地域の棚田です。大小さまざまな田が不規則に並ぶ棚田は、生産性においては不利な条件だと言えます。しかし、Wakka Agriは中山間地でのコメづくりにこだわり、その場所に人が集まる拠点をつくろうとしています。6シーズン目を迎えようとする2022年春。彼らが今どこを目指しているのか、細谷啓太社長に聞きました。
(文・熊谷 拓也)
「すごい」の連続!のコメづくり
Wakka Agriのコメづくりのこだわりを聞くと、一体彼らの何がすごいのか、よく分かります。
- 農薬も肥料も使わない自然栽培でコメをつくっていること
- 中山間地で耕作放棄された棚田を次々に再生していること
- 数軒しか生産者がいない希少種カミアカリを栽培していること
- ニューヨークやハワイ、香港など海外に販路を持っていること
- 甘酒やビールなど人気な加工商品を次々に開発していること
ざっと挙げるだけでこれだけの強みと特徴を持っています。そんな会社が伊那市にあるなんて、すごいと思いませんか!(ちなみに、海外で人気のカミアカリの甘酒は、道の駅「南アルプスむら長谷」で購入することができます)
農業法人が古民家改修・・・・なぜ??
そんな彼らが、ちょうど今(2022年3月)、気になる動きをしています。
そうです!古民家専門の建築士に設計を依頼して、築125年ほどの空き家をリノベーションしているのです。
(・・・・ん?コメ作りに古民家??)
ふとわき上がった疑問を、2021年に社長に就任した細谷さんにぶつけると、興味深い答えが返ってきました。
「最近、うちの出口とよく話しているのは、まちづくりについてです」
出口さんとは、日本産の良質なコメを輸出・販売しているWakka Japan(札幌市)を中心としたWakkaグループの代表です。出口さんは信州大学出身で、そのご縁からWakka Agriの圃場は伊那市長谷に置かれることになりました。
山深い長谷の地でコメづくりを続けること5年。その中で気が付いたことがあると言います。それは「地域が存続しなければ、コメづくりも続けられない」ということでした。
農家にとって地域とは、生活の場であると同時に、生産の場でもあります。Wakka Agriが拠点とする中尾地区に住む住民の大半は60代以上で、子どもはいません。このまま10年、20年、30年と時が流れれば、これまで住民たちの手で管理してきた農業用の水路や柵なども、どうなるか分からない状況です。
では、どうするか。細谷さんたちが行き着いた結論は、「自分たちで人の集まる場をつくろう」ということ。Wakka Agriが新たな拠点とする改修中の古民家が、まさにその役割を担う予定です。
コメをつくるまちをつくる
Wakka Agriのコメづくりは多方面から注目を集めていて、以前から「現場を見てみたい」との要望が寄せられてきました。ただ、近くには宿泊施設がなく、気軽に応じることができなかったと言います。
新拠点となる古民家にはWakka Agriの事務所が入ります。農作業のある時期にはみんなでまかないを食べたり、Wakkaグループの海外拠点のメンバーが訪れた際に宿泊したりするのに使います。薪ストーブにはかまどを設け、「お米を最高においしい状態で食べられる環境」を整えます。
キーワードは「訪れた人に楽しい!うれしい!を届ける場所」。わら細工や伝統料理が得意なおばあちゃんを講師としたワークショップを開催するなど地域の外から人を呼び込んで、将来的に移住・定住につなげる仕掛けづくりを考えています。
長谷で描く日本の農業の未来
農薬も肥料も使わないWakka Agriのコメ作りへのこだわりは、健康志向の高い海外のニーズに応えるためだけではありません。「化学肥料頼みの大規模農業は、人口減少局面に入った今の日本には合わない。そこからの根本的な発想の転換が必要だ」という信念の下、「長谷で未来のスタンダードとなるコメづくりを確立しよう」としているのです。
小さな農業生産法人の大きな挑戦は、まだ始まったばかりです。