伊那市のここがすごい

パッケージ・紙製品で魅せる、寄り添う。アリマックス株式会社

アリマックス 株式会社

伊那市狐島のアリマックス株式会社では、昭和27年の創業以来磨き上げてきた段ボール・紙製品の設計・印刷・プレス加工等の技術を生かし、梱包用パッケージから災害時における非常時グッズまでさまざまな製品を製造、販売しています。近年は、新型コロナウイルスのワクチン接種会場で使用するプラスチックボードのパーテーションの設計・製造を手掛けるなど、本業のパッケージデザインの枠を超え多くの場面で活躍されています。

驚くのは、その生産体制。大型機械を扱う製造業の現場では今なお男性社員の割合が多い傾向にありますが、同社ではなんと従業員のほとんどが子育て中の女性たち。女性の活躍を推進し、「共尊共生」の精神で時代に沿った商品を生み出し続ける同社のバイタリティの源を知りたくて、同社代表取締役社長の伊澤芳夫さん(74)の元を訪ねました。(文・上島枝三子)

紙・段ボールでなんでも創造する技術力

アリマックス株式会社があるのは、伊那市狐島のオフィスや住宅が立ち並ぶ一角。爽やかなパステルブルーの社屋が目に鮮やかです。看板には、大きく「すんごいマシンが揃ってます‼︎‼︎工場見学してみませんか?」の文字が。早速、伊澤社長に工場の中を案内していただきました。

まず案内していただいたのがショールーム。そこには、同社が手掛ける130種類以上の商品がずらりと展示されていました。驚いたのは、エメラルドグリーンの壁まですべて段ボールだったこと! その壁に取り付けられた白い棚から、可愛らしい模様が入った手提げ袋、贈答用の日本酒や農産物の化粧箱、鮮やかな色彩の絵がプリントされた箱、展示用ディスプレイまで、全部です。

「ぜひこれにも座ってみて」と、伊澤社長が指差した先には、椅子とテーブルの応接セットが……! え?これも紙?? 実際に腰掛けてみると、沈み込んだりグラついたりすることもまったくありません。ともすれば安価な木工製品よりはるかにしっかりとしている印象で、紙でできているとは思えない十分な強度があります。なんと耐荷重は150キロ!思わず伊澤社長に驚きを伝えると、「なんでも作ってしまいますよ」とニッコリ。

「段ボールのリサイクル率は95%とも言われています。段ボールは再生可能な木を原料として生まれ、何度でも新たな段ボールに生まれ変わります。段ボールのリサイクルに終わりはないのです」(伊澤社長)

段ボールってすごい。いえ、アリマックスってすごい……!

右下に見えるのが、応接セット。紙とは思えないしっかりとした作り。

アリマックスでは、段ボールなど様々な紙を使って、商業用の大量生産にも小ロットの生産にも柔軟に対応。注文があれば1点限りのオーダーメイドや試作品も、お客様の要望に応じて一から設計、生産をしています。さらに、2022年1月には長野県SDGs推進企業にも登録され、環境に配慮したものづくりにも取り組んでいるそうです。

そんな時代のニーズを満たすものづくりの姿勢は、オリジナル商品の開発にも生かされています。例えば、2011年の東日本大震災のあと、その時の教訓を生かして大規模な地震や避難所での生活に備え、非常用段ボール製トイレ「トイレの救世主」を開発しました。誰でも簡単に組み立てられる丈夫なトイレは、軽く持ち運びも容易です。ほかにも、段ボール製のパネルを連結させて空間を間仕切る「マジカルパーテーション」や「段ボールベッド」など、非常の事態に被災者の心に寄り添う商品を多数開発しています。「トイレの救世主」と「マジカルパーテーション」は、2014年の「信州ベンチャー企業優先発注事業」に認定されました。20年には伊那市との間に、非常時に段ボールベッドなどを提供する「災害時における物資の供給に関する協定」も締結。行政と連携し、地域のサポートに貢献してくれています。

アリマックス製のパーテーション。

アリマックスの高い技術は、コロナ禍でも発揮されています。ワクチンの集団接種会場では、同社が企画・製造するパーテーションが採用されました。材料には、ポリオレフィン製の、環境に優しくリサイクル性にも優れたプラスチックボード「プラパール」が使われています。組み立てが簡単な上に、丈夫で軽量、アルコール除菌液で何度でも拭き上げることもできるため、衛生面でも高く評価されました。平らな素材を一から設計してこんなにもたくさんの商品を作ってしまうのですから、すごい技術力です。

鮮やかで繊細な印刷技術

黒い紙に鮮やかな印刷が美しい同社の封筒。

次に、大型インクジェットプリンターで黒い紙にカラフルな印刷を施す様子を見せていただきました。自宅にプリンターがある方はご存じかと思いますが、一般に白い紙に印刷する場合には、そのままインクを載せてもきれいに発色します。しかし、紙が黒いとそうはいきません。ではどうするのかというと、黒い紙に印刷する場合は、まず先に印刷面に速乾性の白いインクを載せ、その上に赤や黄色のカラーインクを載せるのだそうです。そうすることでより鮮明に発色するのだとか。

さらにこの上から透明インクを載せれば、艶やかで繊細な高級感のある仕上がりに。こちらの印刷機では、あっという間に刷り上がってしまったので、機械の中でそんな複雑なことが行われているとはまったく感じられないほどでした。

「最近は黒いパッケージが人気で需要が高いですよ」と伊澤社長。こうして一つ一つ丁寧に仕上げてくれるのですから、選ばれるのも納得です。

透明インクで艶が出て、質感もアップ。愛らしいイラストは、従業員の息子さんが描いたものなのだとか。

地域と連携しながら、社員の子育てを応援

ところでこの製品の数々は、一体どんな人達の手で作られていると思いますか? 実はアリマックスは社員12名(2022年3月現在)のうち、社長のご家族(奥様、専務であるご子息とその奥様)を除く8名全員が、子育て中の女性たちたちだというのです。

同社では、2016年頃から長野県の「社員の子育て応援宣言」制度に登録し、従業員が仕事と子育ての両立ができるような働きやすい環境づくりに努めてきました。彼女たちの勤務時間は主に9時〜15時のパートタイムです。

「お子さん達を保育園や学校に送り出して、洗濯や食事の片付けをして、それから9時に出勤。15時に帰ったら、洗濯したものを取り込み片付けて、夕食の支度。それからお子さんのお迎えとか、塾に行っていればその送り迎え……ですから、この時間がちょうどいいわけですね」(伊澤社長)

学校行事やPTA活動にも積極的に参加できるよう家庭生活との両立に配慮し、従業員の思いを尊重できるよう会社の雰囲気づくりも大切にされています。伊澤社長の話しぶりからも、女性たちの家事育児に係る頑張りをよく理解されていることが伝わってきました。

従業員のこうした働き方を支援できるのは、同社が地域の様々な企業や団体と協力・連携し合いながら事業を進めている成果であることも教えていただきました。同社では、地域の同業社に印刷や製造の一部を外注して生産量を増やしたり、地域の社会福祉協議会や福祉団体と連携して内職をお願いしたりもしているそうです。地域にある力を最大限に活かし、会社に出勤してフルタイムで働けなくても、社会と関わりを持ちながらこの街で生き生きと暮らしていけるような仕事を継続的に生み出しています。

「社員の子育て応援宣言」登録証

そして、いよいよ会社の心臓部である工場内を見学させていただくことに。先ほど伺ったように、そこで働いている方々は、本当に女性ばかり。彼女たちが、自分の身体の何倍もある大きな機械を見事に操っている様子に感心してしまいました。

同社ではこのような製造部門だけでなく、企画や設計、営業などほぼ全ての業務をここにいる女性たちが担っているとのこと。フォークリフトの運転もするし、軽トラックで配達にも行く。皆さんパワフルに活躍されていました。ジェンダーレスという言葉が一般的になってきた現在であっても、女性が主体となっている製造業は未だ珍しいそうで、国や市の議員さんが視察に来ることもあるそうです。

ここまで読んでくださった方は、子育て中の女性の採用を意識して進めてきたのかと思われたかもしれません。でも、「実際はそうではない」と伊澤社長は言います。アリマックスも元は男性の多い職場でした。しかし高齢化などで社員の入れ替わりが加速した2020年頃、ちょうど新型コロナが流行し始めたその時期に、ハローワークから「社員の子育て応援宣言を前面に出して求人してみませんか」という提案があり、それをきっかけに子育て中の女性たちの採用が一気に進んだのだそうです。

専務である息子さんも同世代のスタッフが増えたことで喜んで、自然と職場が明るくなったといいます。

学校行事や子どもの都合で欠勤することが考えられる女性の採用にあたっては、元々の社風にあった「多能工」の体制がうまくマッチしたようです。多能工とは、一人の従業員が複数の作業や業務を担うこと。ここでは、従業員に複数の機械の操作や、製造から配送に関わる一連の作業ができるよう仕事を共有し、誰かが休んでも別の誰かがスムーズにその工程を引き継ぎ、担えるよう生産体制を管理しています。

「うちは家族を入れても12人の小規模な会社だから、『多能工になってほしい』と面接では言うんですよ。休んだ仲間の分はフォローしあう。もちつもたれつですよ」(伊澤社長)

実際に働く女性たちにも話を聞くことができました。すると、「子どもが具合悪くなっても、嫌な顔をされずに休ませていただけるのでありがたい」、「同世代が多く楽しい。子育ての悩みも共有できる」と話してくれ、皆さんがここでの仕事を楽しんでいらっしゃる様子が伝わってきました。中には、「子どもが大きくなったので復職した」という方もいて、アリマックスがいかに彼女たちの労働環境に配慮しているかがよく分かりました。

「従業員のみなさんには、子どもが大きくなったらぜひ正社員にという話もしています。近年は、『人口減少』『少子高齢化』と言いますが、言っているだけじゃ何にもならない。企業にできることで、それらに歯止めがかかるよう少しでも貢献していきたいと思っています」(伊澤社長)

会社全体で社員の子育てを応援する温かい雰囲気が、働きがいのある安心できる職場環境をつくり、このことが現在の同社の活躍につながっていることは間違いありません。

共尊共生の精神で

“我々は、常に自己研鑽を図り、パッケージ(包装)の製造販売を通じて、世のため人のためにお役に立てます様に、お客様のご要望にすばやく対応して、信用を第一に、感謝の念を忘れず、 共尊共生きょうそんきょうせいの精神に則った健全な繁栄を実現し、ここで働く社員の生活向上に努めます。”

これは、アリマックスの経営理念です。

「経営理念にもある、『共尊共生』は私の一番好きな四字熟語。自分だけ良ければいい、ということではなくて、地球上にいる全てのものを尊重して共に生きるという意味です。そういう意味ではコロナとも共尊共生。人との共尊共生、どちらも大切だと思っています」(伊澤社長)

共に働く仲間の思いを尊重し、災害やウイルスの蔓延といった不測の事態にも、どのように共生できるかを模索する。流通社会に必要不可欠なパッケージ製作の技術を活かし、時代のニーズに応えながら地域社会と一体となって邁進するアリマックス株式会社は、伊那市から日本全国へ、今日もまた魅せるパッケージと人の心に優しく寄り添う製品を届けています。

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【アリマックス株式会社】

〒396-0014 長野県伊那市狐島3805
TEL 0265-72-3558
公式サイトhttp://www.arimax.co.jp/

伊那市産業振興プロジェクト 編集部

「伊那谷の産業と暮らしを豊かにする」をキャッチフレーズに、様々なコンテンツを制作しています。