施策の柱

伊那市の人口は、現在約6万6000人(2021年11月時点)で、全国各地の地方が抱える課題と同様に年々減少傾向となっています。特に、若者の流出が多く、進学等で県外へ出たうち戻ってくるのは3割というデータもあり、2045年には人口5万人をきるのではないかという推計も出ています。さらに、その頃には、生産年齢人口(15〜65歳)と老齢人口(66歳以上)の逆転現象が起こるとも予測されています。こうした背景を踏まえ市では、2045年に予想を覆す5万8000人の人口を確保しようという目標を立てています。

伊那市商工観光部では、産業の発展と持続可能な住みよいまちづくりのため、3つの観点を柱にさまざまな施策を展開しています。

1. 商工振興

まず1つ目の柱が、「商工振興」です。伊那市には、多くのものづくり関連企業※(注釈)がありますが、その既存企業の振興と、各社共通の課題とも言える“人材確保・育成”に力を注いでいます。また、新たな産業を市に呼び込むこと、ならびに、起業してもらうための仕組みづくりの強化を図っています。

※伊那市内の製造業の事業所数は360(総務省2016年6月調査の平成28年経済センサス活動調査確報集計)

近年特に力を入れているのが「スマート工業」です。これは、市が進める「新産業技術推進ビジョン」のうちの1つで、地域企業が持つ課題を新産業技術(AI、IoT)の活用で解決し、生産性と収益の向上を目指すものです。伊那市には、素晴らしい技術を持ったものづくり企業が多数ありますが、その約8割が従業員20名以下の小規模企業者です。こうした企業は、新しい技術をすぐに導入することが難しいため、そこを行政としてサポートできないかと考えています。サポート事業のひとつ「専門家派遣事業」では、商工会議所や上伊那産業振興会と協力して、専門家のアドバイザー「GBO(元気ビジネス応援隊)」や「ITコーディネータ(IT専門家)」を派遣。アドバイザーとともにAI・IoT活用計画を策定し、有識者らによる審査を経て実装に向けた支援を行なっていきます。他にも、「IT導入人材育成講座」や「ハッカソンin伊那」「学生と企業の共同研究」などにより、IT技術者との関係構築や若手IT人材の育成に力を注いでいます。

加えて、市では新産業技術を活用した、中山間地の買い物困難者に日用品を届ける「ドローン物流」やAIを活用した「ぐるっとタクシー」、オンライン診療が可能な「モバイルクリニック」などの取り組みを進めています。地域の課題解決、時代に沿ったサービスの提供に努めています。

2. 産業立地

2つ目の柱が「産業立地」です。産業立地とは何か? 伊那市では、次のように定義しています。

①産業立地=産業を地に根付かせること
②産業=工業のみならず、農林業、商業、観光含む産業全般のこと

一般に産業というと「工業」を指すことが多いですが、伊那市では農林業や観光業も立地対象としているところが特徴です。
この産業立地に取り組む背景には、先に示した人口減少と、それに伴う税収の減少があります。これをなんとか食い止めるためにも、育成した人材の働く機会の確保、雇用の創出が必要不可欠です。そして、持続可能な社会の形成に繋がるような形で企業の皆さまに伊那市を選んでいただきたい、そんな願いが込められています。

近年、自然災害や大火災などの緊急事態に備え、企業が地方に進出する動きが増えてきています。伊那市は日本列島の中心的位置にあり、関東圏、中京圏、新潟方面、そして三遠南信自動車道の開通で静岡方面にも流通に優れた場所です。BCP(事業継続計画)やリスク分散の点においても多くの利点を備えています。
そうした点をPRしつつ、伊那市商工観光部では、平成16年に産業立地の専門部署を立ち上げ、企業誘致に力を入れてきました。現状、市内に12箇所の工業団地(産業適地含む)がありますが、平成16年以降新たに契約成立した面積は40ヘクタール、整備区画数は42区画(内企業提供35区画)となっています。その成果として、雇用の創出はもちろん、企業の投資金額は266億円にのぼり、税収増と地域の活性化に繋がっています。各企業の製品出荷額も伸びており、さまざまな産業がここで息づいていると感じています。

中でも、企業の農業参入と、食品加工・六次産業化への動きは著しく、さまざまな食品企業が新たなビジネスの創出に取り掛かっています。伊那の気候風土とアルプスがもたらす潤沢な水とおいしい農産物を活かし、それをさらに付加価値のある製品開発へと進めていただいています。さらに、中山間地域の遊休農地や荒廃農地の解消にも繋がるなど、持続可能な社会に向けて一歩一歩共に歩みを進めているところです。

3. 観光振興

そして3つ目の柱が「観光振興」です。伊那市では、観光実施計画(アクションプラン)の中で、「山・花・食・技の魅力で心満たされる感動のひととき」をテーマにその魅力を発信する重点プログラムを組んでいます。山は、南アルプス、中央アルプス、それらを取り巻く様々な里山。花は桜やバラ、もみじ。食は、信州そば、ローメン、餃子、ソースカツ丼など。技は、高遠石工の石造物についてです。高遠石工は全国に旅稼ぎし素晴らしい作品を各地に残しています。それは、日本各地のつながりを生み出す大切な資源と考えています。それらの魅力を伝えていくため、自転車の活用による観光誘客、グリーンスローモビリティーを活用した周遊観光、農家民泊を活用した教育旅行の推進も図っています。

また、2の産業立地にも関連しますが、上伊那には古くから味噌や醤油、酒、発酵食品など豊かな食文化が根付いています。そこに企業誘致の取り組みによって、今後様々な食品工場が稼働していきます。「食と健康」をテーマにした拠点を結びつけて、今後、新たな産業観光につなげていけたらと考えています。

※この記事は、2021年11月13日に配信した「土曜はallla」の中で、伊那市の商工観光部長の講演を元に作成しました。

最後に−−3施設開設への思い

「産業と若者が息づく拠点施設allla」「パノラマオフィス伊那」「ママand」の3施設は、産業振興と新しい働き方のための拠点として開設しました。
「産業と若者が息づく拠点施設allla」は、地域産業の活性化と若者の郷土愛を深めること、そして、多種多様な業種、年代、立場の人々がその枠を超えて語り合う交流の場をつくり出すことを目的に、2020年4月、旧伊那消防署をリノベーションしオープンしました。「パノラマオフィス伊那」は、伊那市の新産業創出と地域活性化を目指し開設。新規事業に挑戦している方、サテライトオフィスをお探しの方にぴったりなオフィスです。「ママand」は、仕事と子育てを両立できる多様な働き方を可能とする職場環境を創出することを目的に、2022年4月、旧富県南部保育園の建物を再活用し開設しました。

ここで暮らす人々が生き生きと働く場所として、都市と地方をつなぐ新たな働き方のモデルとして、また、世代や立場を越えた交流の場として、今後さまざまな催しを企画していきます。新着情報は、こちらのサイトに掲載しますのでぜひご覧ください。

TOPICSトピックス