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allla SDGsプロジェクト 「伊那谷産木材を活用したDIY講座」

協力:合同会社ラーチアンドパイン

産業と若者が息づく拠点施設alllaでは、令和3年7月4日と8月8日の2回にわたり、市内の小·中学生とその保護者を対象にした「森の博士と一緒につくろう!伊那谷産木材を活用したDIY講座」を開催しました。この講座では、講師に合同会社ラーチアンドパインの木平英一さんをお招きし、今、森が抱える課題や地域資源の活用について、そして、さらにそれをどのようにSDGs(持続可能な開発目標)の実現につなげていけるかを、DIYを通じて楽しく学びました。

この記事では、イベントの報告と、開催の背景についてまとめます。(文・上島枝三子)

地域の森林資源を有効に活用する

伊那市には、約55,394ヘクタール(令和2年時点)の森林があります。これは、市の面積の約82%にあたる広さです。この豊富な森の恵みと資源を活かす動きが、近年改めて見直されています。

合同会社ラーチアンドパインでは、伊那谷の森で育った「伊那アカマツ」を活用したDIY材の普及に取り組んでいます。一般に、ホームセンターなどで売られている木材は海外から輸入されたものがほとんど。輸送コストがかかっても生産性の高い輸入材の方が国産材よりも価格が安いのが現状です。そのような状況の中でも、せっかくある地域の森林資源を消費者に有効利用してもらおうと、手に取りやすいDIY材に加工・販売し、森と消費者をつなぐ橋渡しをしています。

みんなの手でつくる

イベント当日は、伊那谷の森から切り出されたアカマツ材を使って、ミニテーブルとテーブルセットを製作しました。皆さん、地元産材の感触を肌で確かめたり、使い慣れない工具を慎重に扱いながら親子の会話を楽しんだりしていました。参加者からは、「地域産材に目をむける良いきっかけになった」「思っていたより簡単にできたので、家でも本棚などを作ってみたい」などの感想が寄せられました。

完成した作品は、alllaの共用スペースに置き、市民の皆さんにもご利用いただける形で活用しています。

伊那アカマツ材がウッドデッキになるまで

また、講師の木平さんは講座の中で、自身が製作したウッドデッキを例に、伊那のアカマツがどのように消費者の手に届くのかを紹介しました。

①山から木を切って、トラックで運び出す

②製材所で加工

③乾燥させる

④消費者の手元へ

お店に行けば、製材された外国の木材が手軽に手に入る時代ですが、自分たちの暮らす地域の森林資源を生活に取り入れられることは、森の近くに暮らす私たちの特権かもしれません。

戦後に植えられた多くの樹木が「伐期」を迎えている

ではなぜ今、地域の森林資源の活用が見直されているのでしょうか?
その理由のひとつが、国内の森林の多くが「伐期」を迎えているということです。「伐期」とは、林木を伐採して活用するための適齢期のこと。通常、スギやヒノキなどの針葉樹は樹齢40〜50年で伐期を迎えますが、現在日本には、樹齢50年を超える針葉樹の森が、手入れや活用が進まないまま数多く存在しています。

日本では、第二次世界大戦のあと(主に昭和25年〜45年頃)、戦中戦後の乱伐によって荒廃した土地に、数十年後の未来を見据えて大量のスギやヒノキを植樹しました。針葉樹は成長が早く、建築資材等への活用が見込まれていました。ところが、植樹した木が成長するより先に社会の状況や暮らしは大きく変わり、燃料は石油燃料が主流に、建築資材には外国産の安い木材が使われることが増えていきました。こうして国産材の需要が減ると、国内の林業は次第に衰退していきました。
林業の衰退により、人の手が入らなくなった森林は、本来森林の持つ機能を十分に果たすことができず、土砂崩れなどの自然災害を引き起こす原因ともなっています。これでは、人と森林の関係は、ますます遠ざかっていくばかりです。この悪循環をなんとかしようと、森林資源の活用や地産地消が、今改めて見直されているのです。

人工林の多くが、戦後に植樹されたもので、そのうちの50%が、樹齢50年を超えているというデータも。

消費者一人ひとりの意識が、世の中を変える

「”地域の森で、
 地域の人が、
 地域の木を伐採し、
 地域の人が運んだ丸太を、
 地域で製材し、
 地域の人が使う”
そういうことが、僕はいいことなんじゃないかなって思っているんです。
生産者と消費者が一つの地域にいるというのは、お互いを思いやって、
いろんなことができる。大切なのは思いやりです」(木平さん)

講師の合同会社ラーチアンドパイン代表 木平英一さん

合同会社ラーチアンドパインの代表・木平英一さんは、森林資源の活用について、輸送コストをかけず地域で循環させる「地産地消」が、持続可能な社会向けて重要なのではないかと話します。
かつて、伊那谷は林業が盛んな地でした。木材を加工する製材所も数多く存在しましたが、輸入材の普及によって地域材が売れなくなると多くの企業が廃業せざるを得なくなってしまいました。地域材を使うことは、その地域の産業を守ることにも繋がります。
世界では近年、一人ひとりのお金の力で社会をよりよく変えていこう、という機運が高まりつつあります。「お金の投票(Money Voting)」という考え方です。消費者一人ひとりが、地域について学び、自分が賛同する企業を応援し、目指す未来に向けて消費するものを意識して選択していけば、世の中は少しずつ変わっていくかもしれません。